理工情報生命学術院・生命地球科学研究群
生命農学学位プログラム


概要
人類の豊かな生存基盤を支えてきたのは持続的な食料生産や技術革新であり、その背景には、健全な地球環境、生態系、社会基盤を維持するために先人が成し遂げてきた不断の努力が存在します。我々は、学問として体系化された先人らの経験を学び、その知識を基盤として新たなイノベーションを生み出すことで、生存基盤の安定化と持続的発展を目指さなければなりません。生命農学学位プログラムでは、人類を取り巻く動物、植物、微生物がもつ多様な生物機能や、さらには生物と深く関わりをもつ化合物の役割を分子レベルで理解(基礎科学の探究)し、得られる知見を積極的に活用する(バイオテクノロジーの開発)ことで、食・健康・環境分野における新たな課題を解決し、グローバルな社会発展を牽引する研究者・教育者人材を養成します。
学位プログラムリーダーからのメッセージ
大学院進学をめざすみなさんへ
人類は古くから、我々を取り巻く生物の力を、食料や生活関連資材の生産・加工に利用してきました。ライフサイエンスの興隆により、その根底にある細胞や生体の生命現象を分子レベルで理解できるようになると、特定の酵素や遺伝子、生理活性物質を積極的に改変・利用するバイオテクノロジーが生まれ、生物機能の効率的な制御や模倣が可能となりました。さらに、多様な生物のゲノム情報が解明され、それらを自在に編集することすら可能となった今、この流れはさらに加速しています。一方で、科学技術の急速な進展により、既存の専門分野を超えた課題も生じており、刻々と変化する社会の要請に対応するために、広い見識と学際性を有し、独創的な研究により課題解決に貢献できる学生の育成や、社会人の学び直しの機会も求められています。
このような状況の中で、生命農学学位プログラムでは、動物(動物生命科学)、植物(生命機能化学)、微生物(応用微生物学)がもつ生物機能・生理活性物質の解明や、その利用・開発(生物化学工学)に関する先導的な教育・研究を通して、国際的に活躍できる産官学の研究者や大学教員の育成を使命とします。同プログラムの一部は、2001年に発足した大学院博士課程生命環境科学研究科・生物機能科学専攻(博士後期課程)での教育システムを前身とします。また、つくばの国立研究開発法人の協力の下、国際的に活躍する研究者を本学の教授・准教授として迎えた連携大学院方式による教育も行っています。生命農学の専門分野のみならず、領域を超えた種々の課題解決にも対応出来る人材の育成を目指す本学位プログラムへの皆様の参画を心より期待しています。
学位プログラムリーダー 臼井健郎
学生の表彰
<学長表彰>
学位論文や研究等の学業で優れている学生、課外活動や社会活動等において顕著な功績があった学生に授与される。
<研究群長表彰>
研究科独自に、研究活動・課外活動や社会活動等において、高い評価を受けた学生、または顕著な功績のあった学生に授与される。
<茗渓会賞>
筑波大学の後援・同窓組織である「一般社団法人 茗渓会」が、筑波大学の教育・研究活動を広く社会へ発信するなど、大学院における勉学や研究の成果を生かした顕著な社会貢献活動を行った修了者に授与する。
大学院生への経済支援
博士後期課程学生は、学生であると同時に大学院における研究の担い手(若手研究者)としての側面があります。生命農学学位プログラムでは、博士後期課程学生をRA(リサーチ・アシスタント)に採用し、授業料の半額を支援しています。RAの業務は学生自身が行なっている研究を推進することです。RAを希望する学生はほぼ全員がRA採用されています。この他にも各研究室の支援があります。生命農学学位プログラムでは、博士後期課程学生に日本学術振興会特別研究員(DC1,DC2あるいはPD)の申請を奨励します。また各種奨学金申請の支援も行っています。
・JST「次世代研究者挑戦的研究プログラム」
https://www.tsukuba.ac.jp/education/jst-spring-program/index.html
・キャンパスライフ 奨学金・修学支援
https://www.tsukuba.ac.jp/campuslife/support-scholarship/
研究分野
生命機能化学領域
天然および人工の有用化学物質の開発・利用を目的として、生理活性物質の作用機序と分子レベルでの応答、生理活性二次代謝物質の構造解析、生合成、酵素化学および代謝調節などに関する研究を行っている。
- 天然および合成生理活性物質の標的分子探索と作用機構の解明
- 光酸化ストレスに対する植物の抗酸化応答機構
- 香気成分の生合成経路の解明と生産性の制御
- 昆虫・植物・動物間相互作用に働く情報化学物質の機能
本分野では、情報伝達や転写制御などに関わるタンパク質の三次元構造解析を行って、その活性発現機構を原子レベルで解明するとともに、得られた立体構造情報や機能情報を基にした人工機能性タンパク質の創出を行っている。
- 情報伝達や転写制御に関わるタンパク質の機能構造解析
- 低分子-タンパク質複合型抗生物質の機能構造解析
- 立体構造情報に基づく人工機能性タンパク質の創出
動物生命科学領域
生体は、環境に応答して様々な化学反応を引き起こし、それらの連鎖的シグナル反応によって恒常性を維持している。複雑なシグナル応答は、細胞膜から核内情報へ変換・集約されて、遺伝子発現の”量”を制御する。この時、シグナル応答性の遺伝的ターゲットはゲノムであり、その調節のイニシエーターとして細胞外刺激(リガンド)-膜貫通型受容体が、そしてメディエーターとして転写(制御)因子が重要な役割を果たしており、このような応答機構は生命現象の根幹をなすものである。
- 転写(制御)因子の修飾調節の解明
- 栄養と代謝による寿命・老化の分子メカニズム
- 脳の代謝機能の解明
- ゲノミック・インプリンティング
- 恒常性維持のための遺伝子発現制御
生命発生の重要性と連続性を理解するために、マウスを中心とした哺乳動物で の配偶子形成から受精および胚・個体発生過程での高次制御機構を分子(遺伝子)・細胞・個体レベルで明らかにする。また、その発生制御機構の食料・医薬品生産や生殖・再生医療などへの応用についても研究する。
- 配偶子形成過程での遺伝子転写・翻訳制御の解析
- 受精・卵子活性化、および初期胚発生に関与する制御因子の同定と機能解析
- 次世代生殖・発生技術の開発
細胞分裂期(M期)は複製された染色体DNAを娘細胞に均等に分配する過程である。M期進行の過程の破綻は癌をはじめとした様々な疾患を引き起こす。本研究室では、ツメガエル卵抽出液のシステムやヒト培養細胞を用いて、細胞分裂における染色体動態とその分子メカニズムの解明を目指している。また、核小体による染色体構造や機能の制御機構についても研究している。
- 細胞分裂期における染色体動態の解析
- 染色体凝縮タンパク質コンデンシンの機能解析
- 核小体の新規機能の解析
本研究室では、マウスを中心とした哺乳動物の発生工学研究および高度最新技術の新規開発を行う。特に世界随一のレベルの胚・配偶子を用いた顕微操作技術を駆使し、生殖細胞の特性解析や発生関連遺伝子のエピジェネティクス解析を行い、哺乳動物固有のライフサイクルのダイナミクスに迫る研究を実施する。
- 核移植クローン技術を用いた生殖細胞ゲノムの特性解析
- 核移植クローン技術を用いた胚性遺伝子活性化機序の解析
- 顕微授精技術を用いた雄性生殖細胞保存技術の開発
脳神経系の形成過程や機能維持を制御し、精神・神経疾患等の原因にもなりうる様々な要素(核酸やタンパク質、シナプスなどの構造)を 分子生物学の手法を用いて解析するとともに、各要素の動きや変化を、モデル生物を用いた イメージング(可視化)技術により迅速かつ容易に生体内で評価できるアッセイ系の構築を行っている。 また、動物が生息・生存に適した環境を選択する行動や、生体防御に必要な分子神経機構を研究する。
- モデル生物を用いた脳神経形成と機能維持を制御する因子の解析
- 老化に伴う脳神経系の破綻や疾患を防ぐ物質や因子の探索と疾患モデル動物の開発
- 神経機能の生体内イメージング技術の開発
応用微生物学領域
微生物における新規な生命現象や多様な潜在能力(およびそれを有する生物)を探索するとともに、それに関わる蛋白質・酵素の構造と機能(反応機構を含む)を分子レベルで解明する基礎研究を行っている。それらの知見を基に、新規な機能を有する生物の育種開発を行い、それらの生物工学的な応用ならびに有用物質生産等への応用を目指している。ゲノム情報に基づく生体機能分子工学、医療・環境・食糧の新しい領域も開拓しつつある。
- 新規な代謝の探索および生理学的機能解析
- 代謝工学及び有用酸素・遺伝子の探索・解析・設計・改造
- C-N結合切断および合成酵素の分子機能解析と分子進化に関する研究
- 微生物・酵素のスーパー生体触媒への新機能開発
- 糖および核酸関連酸素の構造機能解析およびDNA・RNA工学への応用
微生物の機能を用いて汚染環境を修復するバイオレメディエーション技術の開発と、循環型社会の構築を目指した微生物による有機性廃棄物の有効利用に関する研究を行っている。また、微生物間のコミュニケーションに関する研究も行っている。
1. ERATO野村集団微生物制御プロジェクト
多様な微生物の集団における1細胞の振る舞いや微生物間相互作用の解明に取り組みます。また、微生物の集団とその周りの環境や他の生物との相互作用にも焦点を当てることで、微生物が集団を形成することでどのように環境に適応するかを明らかにし、未解明な点が多い微生物の集団の全貌解明を目指します。また他分野と協働で革新的な集団微生物の制御技術の創出にも取り組んでいます。
2. 微生物間相互作用
細菌は単細胞生物でありながら、お互いに相互作用を及ぼすことで様々な機能を発揮することが分かってきています。当研究室では、シグナル化合物を介した微生物間コミュ二ケーション(クォラムセンシング)や膜小胞体(メンブレンベシクル)を介した相互作用などを中心に生物学・生態的な解析を進め、それらを利用した微生物制御法の確立を目指しています。
3. バイオフィルム
多くの微生物は実環境中では、細胞外マトリクスに包まれた集合体であるバイオフィルムを形成して生息しています。口腔内における歯垢や、水中で見られる微生物マットや凝集体(フロック)、そして排水処理で用いられている活性汚泥もバイオフィルムの一種として考えられています。私たちの研究室では独自の顕微鏡観察系を開発し、バイオフィルムの機能や形成メカニズムの解析を行っています。得られる研究成果は将来的に活性汚泥を用いた水処理技術の向上や、病原細菌による感染症の予防や治療に繋がることが期待されています。
4. バイオコンバージョン
生物の代謝機能を利用して安価な物質を付加価値の高い物質に変換する事をバイオコンバージョンと言います。当研究室では油脂を代謝する微生物を使って、化粧品や薬品への利用が期待される両親媒性物質(バイオサーファクタント)を生産する研究を行っています。
様々な環境中に適応して生息する微生物の生態、機能、地球環境との関わりについて、主に微生物側の視点から研究している。特に、真核微生物(菌類)の環境応答の分子機構、それらが作り出す酵素の反応機構を分子生物学的手法を用いて明らかとするとともに、それらを利用した環境負荷への適応策や物質生産系の開発を目指している
- 真菌の環境応答・適応・形態形成メカニズムの解明
- 新たな微生物・酵素触媒による有用物質生産
- 細菌の新規代謝と集団挙動
有用な生理活性物質や酵素を産生する事で社会に広く貢献している糸状菌には、未発見の能力が多く眠っていると考えられる。例えば土壌のような自然環境中では常に他者生物と対峙・共存しており、純粋培養による解析では知り得ない相互作用・相互応答現象が存在すると推測される。本講座では、複合的な環境下で糸状菌を解析し、糸状菌の潜在的な生理機能を探究し、そのメカニズムを理解する事を目指す。これらの研究を通して、新規な有用物質の発見や、植物や動物に病気を起こす病原糸状菌の制御技術の確立につなげることで、社会に貢献する。
- 微生物二次代謝を活性化させる生物間相互作用の探索
- 糸状菌の相互作用・相互応答現象における分子メカニズムの解明
- 複合環境における微生物(糸状菌)の生理・生態の解明
未開拓とされる微生物生態系に存在する未知微生物および未知機能遺伝子を新たなる分離培養技術や環境ゲノム解析技術(メタゲノム解析)を用いて探索・機能解明を行い、物質生産や環境浄化、エネルギー生産などの産業利用へ結びつけることを目指している。
- 未知微生物遺伝子資源の探索技術開発(培養技術開発)
- 未知微生物の新たな生物機能の発掘、解明と利活用
- 培養技術と環境ゲノム情報を駆使した未知環境微生物群の多様性と生理生態機能の解明
生物化学工学領域
微生物、植物および光合成細胞、動物細胞を対象とし、それらの顕在化された機能の拡大および潜在的機能の開発とその利用(有用物質生産、環境浄化など)に関する研究を行っている。
- 新規機能を付加した細胞およびプロトプラストの培養法の開発と利用
- 複合生物系の解析と人工の複合生物系培養システムの開発と利用
- 発展途上国におけるバイオプロセスの開発
分子認識、物質移動(輸送)、エネルギー変換等の生体機能を模倣する為の基礎研究とバイオマテリアルズへの応用研究を高分子化学的立場から行っている。
- ホモキラリティー誕生に導いた酵素の立体選択性
- タンパク質と高分子系の複合体に関する研究
- 高分子電解質ゲルに関する基礎的・応用技術的研究
カリキュラム・シラバス
本学位プログラムに3年以上在学し、部局細則(大学院スタンダード)等に規定する修了の要件として必要な授業科目を履修し、その単位を修得し、かつ、必要な研究指導を受け、博士論文を提出し、その審査及び最終試験に合格した学生について、その修了を認定します。なお、優れた研究業績を上げた者は、修了に必要な在学期間を短縮することが可能です(社会人早期修了)。
<取得できる学位> 博士(生命農学)
<専門コンピテンス> 研究実行力、専門知識と倫理観、研究成果公表力、研究適応力
<シラバス>
本学位プログラムの開設科目・シラバスは筑波大学教育課程編成支援システム(KdB) により公開されています。
教育課程編成支援システム(KdB)は本学で開講される授業科目の情報を管理・公表するデータベースです。Webブラウザを起動してhttps://kdb.tsukuba.ac.jpにアクセスしてください。アクセスするだけでは科目は何も表示されません。検索条件を指定し、[検索]ボタンをクリックすることで、該当する科目が表示されます。指定できる検索条件は、年度(指定必須)、学期、時限、教室、要件(選択した科目のまとまりに属する科目が表示されます)などです。上記検索条件を指定して検索ボタンをクリックすると、全ての条件を満たす科目が表示されます。また、キーワードによる検索も可能です。なお、画面上部のメニュー領域にログイン用ユーザーIDとパスワード入力欄が配置されていますが、学生及び一般の方はログインできません。

学位プログラムに関するお問い合わせ先
学位プログラムリーダー 臼井健郎 usui.takeo.kb [at] u.tsukuba.ac.jp
早期修了プログラム*担当 谷本啓司 keiji [at] tara.tsukuba.ac.jp
[ at ] を@に変えて、メールにてお問い合わせください。
*早期修了プログラムについては、以下をご参照ください。
https://www.souki.tsukuba.ac.jp