先輩に聞きました:山口敦史(環境工学コース2015年卒)

このコースに進学した動機を教えてください

入学当初は生物に興味があり,遺伝子の発現やタンパク質の役割に関する研究がしたくて生物資源学類に入学しました。当時の私は,「研究室に入れば生物の勉強は沢山するだろう。だから生物の研究に活かせるように,1,2年生の頃は生物だけでなく数学や物理も勉強しよう。」と考えていました。この考えのもと,生物や化学だけでなく物理や数学の授業を受ける中で,環境や農業に関わる工学の研究を知っていきました。その過程でそれまで意識していなかった,農業や林業,環境保全などに関わる諸現象を物理を含む自然科学や数学を用いて科学的に理解し,私たちの実生活に応用していく環境工学的なアプローチに魅力を感じるようになりました。そのため,コース選択をするときには,環境工学コースを選択しようと自然に決めていました。私が自分に合ったコース選択を行えたのは,授業やコース選択の自由度が大きい生物資源学類の強みが私にうまくはまったおかげだと考えています。

卒業研究のテーマ・内容について紹介してください

卒業研究では,コロイド粒子という非常に小さな(数nm~数µm)粒子間に働く力について研究していました。例えば,土の中には粘土や土壌有機物などのコロイドが無数に存在しています。化粧品などの身近な製品にも粘土や微小な金属酸化物などが添加されています。このコロイド同士がくっつきあったり離れたりすることで,土や化粧品などの流れやすさや手触りが変化します。そのため,コロイド間に働く力を理解することは,環境中の物質の移動の予測や化粧品などの設計に役立ちます。私の研究はそのための基礎となる内容でした。具体的には,大小2種類の符号の異なる粒子を水中で混ぜたときに,小さな粒子が大きな粒子にどのくらい吸着し,大きな粒子の表面の電気的な性質をどう変化させるのか,吸着した小さな粒子によって表面がモザイク状になった大きな粒子の間に働く力はどのようにして決まるのか,といったことを実験と理論モデルを用いて研究しました。

このコースで学んだことを将来どのように役立てたいですか?

現在,私は宇都宮大学で研究員として,土壌侵食の予測・抑制技術を向上させるべく研究しています。土壌侵食は,雨や風によって土壌が運び去られてしまう現象であり,ここでは土粒子同士の結合が断ち切られることが重要な過程のひとつです。私の学生の頃の研究は,土粒子間の結合の強さに関する基礎的な研究でした。そのため,これまでの研究は現在の研究の基礎として生かされています。また,複雑な現象のカギとなる要素を抽出し簡単化して研究する手法は,今後も私の研究の核になると考えています。土壌侵食の研究では,実際の圃場や乾燥地などに適用していくことが重要です。実環境や産業への応用を目指した研究が盛んな環境工学コースで学べたことは,ここでも生かせると思います。最後に,韓国(学類2年次)とドイツへの留学や,研究室の留学生との交流などを通して得た国際的な感覚は,海外の研究者や学生と交流を深め,研究を発展させるために生かしていきたいと考えています。

将来の生物資源学類の学生の皆さんにメッセージをお願いします

大学で学び研究できることは,高校で学ぶ内容から大幅に広がります。例えば,高校生のころの私であれば,世界の食料事情を向上させようとするなら,遺伝子組み換えによる新品種の探索をまず考えていました。しかし,大学に入ってからは,環境工学コースが対象とする農業用水の効率的な管理や衛星写真を用いた広域の水源評価,社会経済コースが対象とする地域ごとの経済にあった農業の導入など,それまで知らなかったアプローチとその重要性を学びました。そこで,将来の生物資源学類生には,視野を広く持って自分が興味を持てる内容をみつけ,深めることで,大学での学びを楽しんで欲しいと思います。そのための多様な授業とコース,豊かな研究設備が生物資源学類には揃っています。加えて,全国から集まる志の高い学生や,経験豊富な教員との交流は得難い学びを与えてくれます。皆さんが生物資源学類で人と学問との良縁に恵まれ,有意義な学生生活を送ることを期待しています。