先輩に聞きました:杉本卓也さん(環境工学コース)

このコースに進学した動機を教えてください

入学当初、私は生物資源学類を作物や畜産について学ぶところだと考えていました。しかし実際には、多様な講義を受けていく中で、生物学的手法だけでなく、水田や森林といった我々の身の回りの環境への工学的なアプローチも学べる、環境工学コースがあることを知りました。特に、環境工学コースでは、物理・数学教育に力を入れていて、生物や環境を数物的な視点で見渡す基礎を学べることを、魅力に感じました。この魅力と相まって、当時、環境工学コースの諸先生方の講義を面白いと感じていた私は、自らの知的好奇心の赴くままに、このコースへの進学を決めました。

卒業研究のテーマ・内容について紹介してください

私はコロイドと呼ばれる、泥水や化粧品のような小さい粒子が液体と混ざって濁ったものを研究しています。学問分野としては、コロイド界面科学と呼ばれるもので、私たちの生活を支え、今日めざましい発展をとげているナノテクノロジーを支えている学問でもあります。私は、その中でも特に、泥水の透視度改善や化粧品の貯蔵性向上に関連した、液体内の小さい粒子たちがお互いにくっつき集まる、凝集、という現象に着目しています。この凝集は、電気的な力などの粒子同士のミクロな相互作用により制御されていますが、河川などの水の流れ中で、電気力が凝集をどの程度阻害するかといった系統的な実験は十分ではありませんでした。卒業研究では、粒子表面の解離基数により電気量を制御し、流れの中での電気力が凝集の速さに与える影響を測定し、理論モデルとの比較検討を行いました。

このコースで学んだことを将来どのように役立てたいですか?

現在は、大学院の博士課程に進学し、卒業研究を発展させながら、研究を行っています。幸いにも、研究者へ研究費を配分する機関である、日本学術振興会から、特別研究員(DC1)として採用され、学生という身分でありながらも、経済的に自立して研究活動に従事することが出来ています。この原稿執筆当時も、博士課程での研究の一環として、スイス連邦のジュネーブ大にて、滞在研究中です。ジュネーブ大では、大きさや表面の電気量あるいはその符号の異なる粒子同士で起こる凝集である、ヘテロ凝集という現象を研究しています。このヘテロ凝集は、様々なものが混淆している不均一な生物・環境を理解する上で重要なものです。今後は、引き続き環境工学コースと大学院で学んだことを活かしながら、研究を続けていきたいと考えています。

将来の生物資源学類の学生の皆さんにメッセージをお願いします

生物資源学類の特色でもある、4つのコースに関連した多様な講義を受けられる環境は、非常に魅力的だと思います。これらの講義を受けていく中で、私のように入学当初に自分が進むと考えていたコースとは、異なるコースに進むことを選べるのも、生物資源学類の魅力の一つだと思います。コース選択に迷った際には、自分の好奇心にしたがって、自分の進路を選び、充実した学生生活を送ってほしいと思います。また、私の研究分野でもある、生物資源におけるコロイド界面科学の対象は、土、水処理、食品・化粧品、微生物、生体材料など、どれをとっても不均一で、かつ私の研究にも関連する流れの影響が関わるものです。少しひいき目ですが、このような不均一性と流れをキーワードにしたコロイド科学は、これからも非常に発展性のある分野だと感じます。そこで大事になってくるのが、生物学だけでなく、数学・物理の応用分野としての「生物資源」という認識を持つことなのではないかと思います。

<プロフィール>
現在、私はスイスのジュネーブ大学のBorkovec教授の率いるコロイド表面化学ラボ(LCSC)に滞在し、筑波大学の博士課程の大学院生としてコロイドのヘテロ凝集のダイナミクスに関する共同研究を行っています。LCSCには、世界中からコロイド界面科学分野の第1線の研究者が集まっており、その一員として充実した研究生活を送っています。