植物寄生菌学
〔学士課程〕農林生物学コース 〔博士前期課程〕農林生物学領域 〔博士後期課程〕生物圏資源科学領域
私たちと菌類・細菌
当研究室では植物と密接に関わって生きる菌類や細菌の多様性、分類、生態、生理などを研究しています。研究対象となるのは、さび病菌、青変病菌、天狗巣病菌、トマト斑葉細菌やキャベツ黒斑細菌などの植物病原微生物、外生菌根菌、アーバスキュラー菌根菌、ラン菌根菌、内生菌などの共生菌からリターや材の分解菌などさまざまな微生物です。
これらの菌類や細菌の基礎生物学的な特性をフィールドワークから分子生物学的解析におよぶ様々な手法により解明することで、将来的には植物病原微生物の総合防除や環境保全にも役立つものと期待しています。これらの研究を行うにあたっては、植物はもちろんのこと、昆虫などの他の生物分野とのコラボも重要と考えています。昆虫に次いで多くの種が存在すると考えられている菌類、そして細菌を通して生物間の相互関係を理解することは生態系を理解する上でも非常に重要なことです。
研究内容
現在、植物寄生菌学研究室で行っている主な研究は次のとおりです。
- 寄生・共生菌類の形態学的特質の解明
- 分子情報による系統・進化の解明
- 分類・同定システムの構築
- フィールドワークなどによる生態・生活環の解明
- 植物への接種試験などによる寄生機能の解明
- 病原微生物に対する植物の免疫応答システムの解明
- 病原微生物の感染メカニズムの解明
- 持続可能な植物保護資材の開発

岡根 泉
博士(農学)
<専門分野>
植物病理学,菌学
<略歴>
筑波大院農学研究科修了.(公財)発酵研究所主任研究員,NITEバイオテクノロジーセンター主査,筑波大学助教を経て2013年より現職.
okane.izumi.fwu.tsukuba.ac.jp
研究課題
植物に関わる菌類の分類と生態に関する研究
菌類の生態的機能や生態的地位は想像する以上に多様化しています。植物と菌類の共生関係はさまざまな要因で相利共生、片利共生、寄生あるいは腐生などに変化します。植物に関わって生きる菌類のさらなる理解のために多角的な視点からアプローチします。
(1)さび病菌の分類と生態に関する研究
生活環が不明な異種寄生性のさび病菌の生態の解明や分類学的研究など、さび病菌の制御あるいは有効利用のために必要な基礎研究を行っている。
(2)植物内生菌の分類と生態に関する研究
植物病原菌あるいは分解菌として知られてきた菌類の多様性と生き様を明らかにするため、植物内生菌という視点からこれらの菌類の分類や系統、生態について研究を行っている。特に、森林生態系で重要な分解菌あるいは病原菌として機能する一方で内生菌としても生息する菌類や、塩生植物上で内生菌として生息する菌類について研究を行っている。
担当講義
- 植物寄生菌学(学類)
- 植物病理学(学類)
- 生物資源フィールド実習(学類)
- 農林生物学基礎実験(学類)
- 農林生物学実験(学類)
- 植物寄生菌学実験(学類)
- 植物病理学(修士)
<他学類>
- 生物学序説(生物学類)
- 機能微生物学I(生物学類)
- 機能微生物学II(生物学類)
- 基礎生物学実験(生物学類)
- 生物寺子屋(生物学類)
学生の研究テーマ(大学院)
- ノムシタケ科菌類によるダイズさび病の抑制機構の解明と生物防除に関する研究
- インドネシアにおける内生性Phyllosticta capitalensisの宿主植物と系統学的多様性
- 東南アジア大陸部の広義Ravenelia属サビキンの分類学的研究
- 植物生育促進性根圏細菌によるキャベツ黒腐病の防除に関する研究
- 北茨城のスズタケに寄生するサビキン Puccinia sp. 1の分類学的帰属の解明
- 東南アジア・オーストラレーシアのブドウ葉さび病菌Neophysopella tropicalis及びアメリカ大陸のN. uvaの分類学的再検討
- Pseudomonas cannabina pv. alisalensisの植物毒素コロナチンの発現に関与する遺伝子の同定
- 抵抗性誘導剤によって誘導される防御応答が標的とする細菌病原力因子の解明
- ASMによるアブラナ科植物黒斑細菌の防御メカニズムの解明
メッセージ

阿部 淳一 ピーター
博士(農学)
<専門分野>
菌根菌学,植物寄生菌学,植物病理学
<略歴>
筑波大院農学研究科修了.筑波大学助手を経て2011年より現職.
abe.junichi.p.gnu.tsukuba.ac.jp
研究課題
菌根とは菌類が植物の根の中に共生し、菌が植物から炭水化物を得て、その代わりに菌が植物に必須三要素のうち、リンと窒素などを供給している共存関係。菌根は、すでに4.6億年前、陸上植物で存在していたと推測。今は、8割の陸上植物の根に菌根が普遍的に存在。研究では菌根菌の分類学的所属を調べたり、分布・動態を調査したり、菌根菌の応用について考察したりする。
これまでの研究
- 第一次植物遷移の植物群集における菌根菌の動態解明により菌根菌の遷移を明らかにした
- シダ植物の菌根形態調査により新しい菌根タイプを発見・日本で初めてツツジ植物科の菌根菌の多様性を調査
- トリュフの分類、生態、栽培に挑戦
- ラン科植物ネジバナの菌根菌Tulasnellaの分類
今後の研究
土壌改良、自然保護、食料生産における菌根菌の利活用開発のための基礎研究。(例)菌根菌の力を最大限に生かした圃場や緑化の土壌改良生物資材の開発。
担当講義
- 植物寄生菌学(学類)
- 生物資源フィールド学実習(学類)
- 農林生物学基礎実験(学類)
- 農林生物学実験(学類)
- 植物寄生菌学実験(学類)
学生の研究テーマ
- ネジバナ菌根菌の特異性の解明(修士)
- Effect of 9-year abandonment on mycorrhizal fungal community of annually-cut Miscanthus sinensis grassland(学類)
メッセージ

石賀 康博
博士(農学)
<専門分野>
植物病理学
<略歴>
岡山大院自然科学研究科修了.オクラホマ州立大学研究員,米国ノーブル財団研究所(The Samuel Roberts Noble Foundation)研究員を経て2012年より現職.
ishiga.yasuhiro.kmu.tsukuba.ac.jp
研究課題
世界規模課題の解決を目指して、植物と病原菌の相互作用を分子レベルで解析している
(1)植物の病原菌に対する免疫機構の解明
植物は哺乳類のような獲得免疫を持たないことから、独自の免疫システム(植物免疫)を進化させてきたと考えられる。我々は、植物が保持する病原菌に対する植物免疫システムを分子レベルで理解し、それを応用することで、新規耐病性植物の開発を目指している。
(2)植物病原細菌の病原性機構の解明
植物病原細菌は、植物表面に定着した後に自然開口部(気孔など)から侵入する。その後、細胞間隙において増殖し、病斑を誘導する。我々は、植物病原細菌の宿主植物への定着、進入、増殖、発病という病原性サイクルのメカニズムを理解するために、これらのステップに関連した細菌遺伝子の分子機能の解析を進めている。
(3)ダイズさび病に対する作物保護技術の基盤開発
ダイズさび病は、世界の食糧安全保障を脅かす重要病害として知られている。世界レベルでの食糧供給安定化のためには、持続可能な抵抗性育種を実用化することにより、被害を最小限に抑えることが必要不可欠である。我々は、ダイズさび病菌の感染戦略及び植物の抵抗性を分子レベルで解析している。
担当講義
- 生物資源フィールド学実習(学類)
- 農林生物学基礎実験(学類)
- 農林生物学実験(学類)
学生の研究テーマ(大学院)
- ダイズ斑点細菌病菌の病原力因子に関する研究(修士)
- キウイフルーツかいよう病菌biovar6の病原性関連遺伝子の発現解析(修士)
- アブラナ科植物黒斑細菌病菌の病原性の解明(修士)
- セルロースナノファイバーによる病害防除のメカニズムの解明(学類)
- セルロースナノファイバーによる植物生長および病害防除の解析(学類)
メッセージ
学生時代にしかできないことに取り組んで欲しいです
山岡 裕一
農学博士
<専門分野>
植物病理学,菌学
<略歴>
筑波大院農学研究科修了.アルバータ大学化学部博士研究員,筑波大学助手,筑波大学准教授,筑波大学教授を経て2023年より現職。
yamaoka.yuichi.gpu.tsukuba.ac.jp
研究課題
(1)さび病菌の分類、生理、生態学的研究
さび病菌の分類、生活環や宿主範囲など植物寄生菌としての基礎的な情報を明らかにし、病原菌の生態的防除に活用する。特に、マツ類こぶ病菌、マツ類葉さび病菌、ヤナギ類葉さび病菌、スゲ類さび病菌について研究を進めている。
(2)さび病菌の菌寄生菌に関する研究
さび病菌の菌寄生菌の多様性と寄生性を明らかにし、生物防除への利用可能性を検討する。
(3)青変病菌の分類、生態、生理に関する研究
樹皮下穿孔虫が伝搬する青変病菌の分類、宿主特異性、青変病菌と穿孔虫とのかかわり合い等の生理・生態学的研究を行う。
(4)樹木の立枯れ病、枝枯れ病の病原性に関する研究
穿孔虫が伝搬する青変病菌やFusarium属菌、Hymenoscyphus属菌などによる生立木の枯死や枝枯れ病について、これらの病原菌と樹木との相互作用の理解および防除法の開発のため、枯損メカニズムを解明する。
担当講義
- 資源植物保護学(学類)
- 植物病理学(学類)
- 植物寄生菌学(学類)
- 植物寄生菌学実験(学類)
- 機能微生物学II(生物学類)
- 植物寄生菌学特論(修士)
学生の研究テーマ
- グリーンアイランド現象を通じた絶対寄生関係における宿主・寄生者の生存戦略の解明(博士)
- 西表島の生葉上地衣類相(学類)
メッセージ
研究員・職員
- 研究員 1名
- アソシエート 3名
- 技術補佐員 1名
学生
- 博士課程 4名(D3:2名,D1:2名)
- 修士課程 9名(M2:5名,M1:4名)
- 学類 2名
進路
【進学】筑波大学/東京大学
【教育関係】
茨城県小学校教員/神奈川県中学校教員/東京都中学校教員/新潟県高等学校教員/茨城県高等学校教員/愛知県高等学校教員/三重県高等学校教員/徳島県高等学校教員/新潟大学/上越教育大学/茨城大学/信州大学/鳥取大学/浦和明の星女子中学校・高等学校/慶應義塾大学
【公務員関係】
龍ケ崎市/川崎市/横浜市/出雲市/山形県/栃木県/埼玉県/茨城県/石川県/静岡県/山梨県/長野県/愛知県/岐阜県/島根県/福井県/群馬県/森林研究・整備機構(旧森林総合研究所)/農業・食品産業技術総合研究機構/野菜茶業研究所/農研機構果樹研究所/広島県警察/高知県立牧野植物園/農林水産省/科学技術振興機構
【民間企業】
カスミ/三好アグリテック(株)/日本郵便株式会社/東急ハンズ(株)/スズキ(株)/(株)メディアート/(株)コスモステクニカルセンター/(財)農民教育協会/シオノギ製薬(株)/武田薬品工業(株)/田辺三菱製薬(株)/株式会社マイクロンクミアイ化学工業(株)/森永乳業/長崎新聞社/協和発酵キリン(株)/UFJ銀行東京海上/フレッシュMDホールディングス(株)/アメリカンファミリー生命保険会社/(株)JA新あきたライフサービス/つくばわんわんランド/長浜キャノン(株)/ヤクルト/ホクレン/サカタのタネ/三井情報株式会社/日東紡績(株)/日立ソフトウェアエンジニアリング(株)/ヤマザキナビスコ(株)/(財)日本穀物検定協会/中央研究所/(株)SRD/シンジェンタジャパン(株)/(株)資生堂/参天製薬(株)/(株)大田花き/野畑ファーム/第一三共製薬(株)/(株)ウィズダム/(株)テクノスルガ・ラボ/セイコマート/日本アイ・ビー・エム/クミアイ化学工業/(株)タキイ種苗(株)/サントリーホールディングス(株)/日本マイクロソフト(株)/日本たばこ産業(株)/大日本印刷(株)/(株)日経BP