植物育種学
品種改良の基礎となる育種学は「ものづくりのための学問」であり、その主たる目的は育種のための理論の構築と育種技術・育種素材の開発です。近年、ゲノム解析技術やそれを利用した育種技術は大きく発展し、様々な農業問題を解決する新品種が生み出されています。一方で、未解決の農業問題も数多く残されており、これまで以上に育種への期待が高まっています。育種は長らく個々の育種家の知識や経験に裏付けられた「育種家の目」に基づいて行われてきました。実際に様々な作物における現行品種がその祖先種や過去の品種よりもはるかに優れている事実は、経験を積んだ育種家の目が優れていたことの証左です。しかし、現在の育種には、栽培環境の不安定化や病虫害の蔓延等の生産現場の問題や消費者の多様なニーズに迅速に対応できることがこれまで以上に強く求められています。今後、育種効率を大幅に向上させて短期間で新品種を育成するためには、優れた育種家の目に加えて、表現型、ゲノム、環境データなどの多様な情報の統合的な解析を通して得られる知見を活用し、新しい育種技術を確立することが必要です。また、遺伝子組換え技術等の新しい育種技術で生み出される新品種の安全性を検証し、その結果を社会に説明するのも育種学分野の果たすべき使命だと考えています。
植物育種学分野は筑波大学開学後の農林学類・農学研究科の設置に伴い、東京教育大学農学部育種学講座を母体として発足しました。以来、本分野所属教員は学部・大学院における植物育種に関連する教育を担当するとともに、数多くの学生とともに植物育種に関する諸問題を解決するための研究を進めてきました。現在は雑穀類や野菜類等を対象に、育種素材となる遺伝資源の確保、育種技術の高度化及び育種に関わる科学的知見の獲得を目指した研究を進めています。いずれの研究も最終的な目標を単に知見の獲得にするのではなく、より実用的な育種技術や育種素材の開発にまで高めることにより、研究成果を迅速に社会に還元することを目指しています。
学士課程:生命環境学群
生物資源学類・農林生物学コース
博士前期(修士)課程:理工情報生命学術院
生命地球科学研究群・生物資源科学学位プログラム・農林生物学領域
博士後期(博士)課程:理工情報生命学術院
農学学位プログラム・生物圏資源科学領域
研究センター
つくば機能植物イノベーションセンター・次世代農業研究部門
メンバー
准教授
博士(農学)
研究分野:園芸科学、遺伝育種科学
略歴:筑波大院生命環境科学研究科修了.農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所・研究員、筑波大学生命環境系・助教を経て現職.
yoshioka.yosuke.fwu.tsukuba.ac.jp
STAFF
スタッフ
研究員:0名
技術補佐員:2名
STUDENTS
学生
博士:5名(D3:1、D2:3、D1:0、社会人:1名)
修士:3名(M2:0名、M1:3名)
学類:1名
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学生募集(学類生・大学院生)
研究
概要
フィールド研究を主体として
近年、ゲノム情報解析技術が急速に発展し、多くの作物で主要な農業形質に関与する遺伝子が同定されるとともに、DNAマーカー選抜技術の確立・高精度化など、ゲノム情報を利用した育種が大きく発展しています。しかし、育種の対象となる重要形質、例えば、病虫害抵抗性、環境ストレス耐性、収穫物の食味・食感や外観品質には、多数の遺伝子に支配されているもの、環境や遺伝子-環境交互作用の影響を強く受けるもの、あるいは定量的・定性的評価が難しいものなどの複雑な形質が数多く存在します。精度の高いゲノム配列情報が得られる今、ゲノムと形質の統合的な解析の成否は、それに見あう精度の高い形質情報が得られるか否かにかかっています。今後の育種研究においては、農業上有用な形質について、形質評価精度に関わる栽培・実験手法や測定技術を向上させた上で、その遺伝的機作の解明や育種技術の開発に挑戦することが強く求められています。本分野では様々な作物を対象に栽培、観察、形質評価といったフィールドワーク、分子生物学実験やコンピュータを用いたゲノム情報解析、さらには情報技術を活用した形質評価法の開発等の幅広い研究を行っています。
有用遺伝資源の探索と育種素材開発
世界的にも主要な野菜であるウリ科や熱帯アジア原産の野菜類を対象に、遺伝資源の特性評価と、加工・調理適性、省力栽培適性及び耐病性などに関わる有用形質をもつ遺伝資源の探索を行っています。最近では農林水産省委託プロジェクト研究に参加し、アジア由来のキュウリやカボチャ等の遺伝資源の増殖、特性評価及び様々な環境下での栽培適性の評価を行っています。また、本分野では世界的にも主要な野菜であるウリ科作物やアマランサスを対象に、遺伝解析等の材料となる優れた固定系統の育成を進めるとともに、生産者、流通加工業者及び最終消費者にとって魅力のある先導的品種や、その育種素材となる品種の育成にも取り組んでいます。品種の育成では国立研究開発法人等の公的研究機関や民間種苗会社と共同開発を積極的に行っています。
研究対象作物
メロン(ウリ科キュウリ属)
キュウリ(ウリ科キュウリ属)
カボチャ(ウリ科カボチャ属)
アマランサス(ヒユ科アマランサス属)
アブラナ科野菜・菜種(アブラナ科アブラナ属)
現在実施中の課題
<遺伝資源の多様性解析とその利用・保全に関する研究>
- 野菜用アマランサスの種間・種内の遺伝的多様性解析(𠮷岡)
- カボチャ属遺伝資源の多様性解析(𠮷岡)
<栽培植物の適応・進化学的解析>
- メロン果実形質の多様化機構の解明(𠮷岡)
- メロンの性表現の多様化機構の解明(𠮷岡)
<重要農業形質の遺伝解析と育種技術の開発>
- メロン単為結果性の遺伝解析と遺伝子単離(𠮷岡)
- メロンの性表現の遺伝解析と遺伝子単離(𠮷岡)
- アマランサスの収量・品質関連形質の遺伝解析とDNAマーカー選抜技術の開発(𠮷岡)
- キュウリ病害抵抗性の遺伝解析とDNAマーカー選抜技術の開発(𠮷岡)
<有用遺伝資源の探索、育種素材化及び品種開発>
- アマランサスの有用育種素材の探索(𠮷岡)
- キュウリ褐斑病・炭疽病抵抗性の有用育種素材の探索(𠮷岡)
- メロン単為結果性の育種素材・品種開発(𠮷岡)
<野菜類の効率的採種技術の開発>
- 野菜類における花形質改良によるポリネーターの誘因効果の向上に関する研究(𠮷岡)
<情報技術を活用した表現型測定の高度化>
- 表現型計測の効率化に寄与する画像解析技術等の開発(𠮷岡)
所属学生の研究テーマ
卒業研究
- ヒユナ(Amaranthus tricolor L.)の茎葉色の遺伝解析
- スイカ遺伝資源の炭疽病抵抗性の評価
修士論文
- メロンにおける果実形態の遺伝解析とDNAマーカー選抜システムの構築
- メロン果実食感の定量的評価と変種間差異の検出
博士論文
- 日本在来雑草メロンに由来する新規性決定遺伝子に関する遺伝育種学的研究
- A Genetic Study on Resistance to Anthracnose Caused by Colletotrichum orbiculare in Cucurbits
(ウリ科作物における炭疽病(Colletotrichum orbiculare)抵抗性の遺伝学的研究) - Study on Genetic Diversity of Leafy Amaranth (Amaranthus tricolor L.) in Vietnam
(ベトナムにおける葉菜アマランサスの遺伝的多様性に関する研究)) - Diversity Analysis of Rapeseed (Brassica napus L.) Genetic Resources in Japan
(日本のセイヨウアブラナ遺伝資源の多様性解析)
教育
学士課程
生物資源学類
植物遺伝学(𠮷岡)
植物育種学(𠮷岡)
生物統計学(𠮷岡)
農林生物学基礎実験(𠮷岡)
農林生物学実験(𠮷岡)
生物資源フィールド学実習(𠮷岡)
農林生物学コース専門演習(𠮷岡)
博士前期(修士)課程
生物資源科学学位プログラム
植物育種学特論(𠮷岡)
農林生物学演習I・II(𠮷岡)
農林生物学特別研究I・II(𠮷岡)
生物多様性と地球環境(𠮷岡)
博士後期課程
農学学位プログラム
生物圏資源科学講究I・II・III(𠮷岡)
学士・修士・博士課程共通
研究室セミナー
【研究報告】試験設計検討会・成績検討会(4月)、中間成績検討会(9月)、プログレスミーティング(適時)
【論文紹介】植物育種学に関連する学術論文や書籍等の紹介(春ABC・秋ABの毎週)
【発表練習】卒業研究発表会(1~2月)、修士論文発表会(1~2月)、博士論文発表会(適時)、国内・国外学会発表の練習(適時)
【特別セミナー】外部研究者の研究発表、種苗業界説明会など
卒業生・修了生の進路
進学
筑波大学大学院理工情報生命学術院
民間企業・団体
国家・地方公務員
農林水産省、警察庁、茨城県庁、岩手県庁、愛媛県庁、香川県庁、神奈川県庁、熊本県庁、埼玉県庁、千葉県庁、東京都庁、栃木県庁、富山県庁、長野県庁、新潟県庁、福島県庁、牛久市役所、大田区役所、船橋市役所など
独立行政法人等
農業・食品産業技術総合研究機構、北海道立総合研究機構など